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大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)58号 判決 1992年12月01日

大阪市港区磯路二丁目一番二号

原告

河野守

右訴訟代理人弁護士

喜治榮一郎

大阪市港区磯路三丁目二〇番一一号

被告

港税務署長 堂本伝

右指定代理人

田中素子

小山久雄

関山輝

竹田優

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  被告が昭和六三年一二月二六日付でなした原告の昭和六二年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、家具、寝具等の販売を業とする株式会社カワノ(以下「カワノ」という。)及び不動産貸付を業とするカワノビル株式会社(以下「カワノビル」という。)の各代表取締役である。

2  原告は、昭和六二年分の所得税につき、別表1「当初申告」欄記載のとおり申告した。

これに対し、被告は、昭和六三年一二月二六日付で、同表「更正処分等」欄記載のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下、両者を併せて「原処分」という。)をなした。

これを不服として、原告は、平成元年一月二五日、同表「異議申立」欄記載のとおり異議申立てをしたが、被告は同年五月一七日付でこれを棄却した。

そこで、原告は、同年五月二四日、同表「審査請求」欄記載のとおり審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成二年六月二〇日付でこれを棄却した。

二  主張及び争点

1  本訴請求は、原処分には、分離長期譲渡所得の金額の認定を誤った違法があるとして、その取消を求めるものである。

2  これについての当事者の主張の要旨は次のとおりである。

(一) 被告

原告の昭和六二年分の分離長期譲渡所得金額(以下「本件分離長期譲渡所得金額」という。)は、以下のとおり一億六九九四万五四五五円であるところ、原判決の認定は、別表2記載のとおり右金額の範囲内である一億五六四四万一四八二円であるから、原処分は適法である。

(1) 譲渡収入金額 一億八〇〇〇万円

昭和六二年三月一八日、原告及びカワノビルが福田土地株式会社(以下福田土地」という。)に売却(以下「本件売買契約」という。)した原告所有の別表4<1>ないし<5>記載の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上のカワノビル所有の同表<6>記載の建物(以下「本件建物」という。)の売却代金三億三〇〇〇万円のうち、同年六月三日、原告とカワノビルの合意により定めた本件土地売却分(底地価格分)の金額

(2) 取得費 九〇〇万円

租税特別措置法(但し、昭和六三年法律第四号による改正前のもの、以下同じ)三一条の四(長期譲渡所得の概算取得費控除)の規定により、原告の前記譲渡収入金額に百分の五を乗じた金額

(3) 譲渡に要した費用 五万四五四五円

本件売買契約の契約書に貼付された一〇万円の収入印紙の金額一〇万円のうち、原告の前記譲渡収入金額に対応する金額として計算される原告負担分の金額

(4) 必要経費合計 九〇五万四五四五円

前記(2)と同(3)の合計金額

(5) 差引金額 一億七〇九四万五四五五円

前記(1)から同(4)を控除した金額

(6) 特別控除額 一〇〇万円

租税特別措置法三一条一項及び四項に規定されている長期譲渡所得の特別控除額

(7) 分離長期譲渡所得金額 一億六九九四万五四五五円

前記(5)から同(6)を控除した金額

(二) 原告

本件土地の譲渡には、以下のとおり所得税法六四条二項及び租税特別措置法三七条一項が適用されるから、本件分離長期譲渡所得金額は別表3記載のとおり零となる。

(1) 所得税法六四条二項の適用

原告の本件土地の譲渡は、別表5記載のカワノの各債務(以下「本件各債務」という。)につき原告が連帯保証をしていたところ、その保証債務を履行するための資産の譲渡であり、かつ、原告はカワノに対し、その履行に伴う求償権の行使ができなかったのであるから、所得税法第六四条二項が適用される。

(2) 租税特別措置法三七条一項の適用

原告は、本件土地を譲渡した日の属する昭和六二年の一二月三一日までに、一棟の建物大阪市港区市岡一丁目四番地二所在ユニハイム市岡2の専有部分家屋番号(建物の番号)九〇六居宅鉄筋コンクリート造一階建九階部分六三・四七平方メートル(以下「本件マンション」という。)を代金一四五五万七八四〇円で取得し、取得の日から一年以内にカワノに商品倉庫として使用させているのであるから、本件分譲長期譲渡所得金額の計算にあたっては、本件マンションは買換資産として、その取得価額について租税措置法三七条一項が適用される。

3  被告の前記2(一)(1)ないし(3)記載の本件土地の譲渡収入金額、取得費及び譲渡費用に関する主張については、原告は明らかに争わないから、本件の争点は、本件土地の譲渡による所得への所得税法六四条二項及び租税特別措置法三七条一項の各適用の有無ということになる。

第三争点に対する判断

一  所得税法六四条二項の適用について

所得税法六四条二項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、当該譲渡に係る収入金額のうち求償権を行使することができないこととなった金額に対応する部分の金額は、所得金額の計算上なかったものとみなす旨規定している。

そこで、本件につき、右要件の存否を検討する。

1  保証債務履行のための資産の譲渡について

(一) 右規定の文言からすれば、同規定が適用されるためには、まず、保証債務を履行するため資産の譲渡があり、その収入により保証債務の履行がなされたことが要件とされているところ本来、資産の譲渡による収入を保証債務の履行に充てるか否かは所得処分の問題であり、所得金額の有無やその計算にあたっては当然に考慮されるべき事柄ではない。しかしながら、資産の譲渡が保証債務を履行するためになされたものである場合、これにより生じた収入をもってなされた保証債務の履行、すなわち出損の全部又は一部が回収できなかったときには、経済的には、その分の所得はなかったのと変わりがないとみることもできる。そこで、このような場合の課税の特例的な減免を認めたのが所得税法六四条二項である。したがって、右「保証債務を履行するため資産の譲渡があった」との要件を充足するためには、資産の譲渡が保証債務の履行を余儀なくされたために行われたものであることを要すると解するべきであり、また、「その収入により保証債務の履行がなされた」といえるためには、資産の譲渡による収入と保証債務の履行との間に、資産譲渡による収入が保証債務の履行に充てられたという因果関係が認められることを要するというべきである。

(二) 甲第二号証の一ないし六、第四ないし第九号証、第一一号証の一ないし九、第一二号証、第一三号証の一ないし九、第一六、第一七号証、第一八号証の二、第一九、第二〇号証、第二三号証の一、二、第二五号証の一ないし三、乙第五号証の一、二、第六ないし第八号証の各一、二、第九号証の一ないし三、五、第一〇号証、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、次の事実が認められる。

(1) 昭和六二年三月当時、カワノには、本件各債務が存在し、これらの債務について、いずれも原告が連帯保証していた。

(2) カワノは、かねてより債務超過の状態にあり、昭和六二年三月ころには、支払手形及び買掛金の合計額が一億円に達する程にまで膨らみ、順次期限の到来するこれらの債務の決済資金に窮するに至った。そこで、原告は、本件土地及び本件建物の売却により、右資金を調達することにし、前記のとおり、同月一八日、原告及びカワノビルが福田土地に本件土地及び本件建物を代金三億三〇〇〇万円で売却する本件売買契約が締結された。

(3) ところで、カワノは住友銀行に当座預金口座を開設していたが、右口座は、貸越限度額が一八八〇万円のところ、右契約締結の日現在の貸越が一二三九万八三三九円となっており、このままでは、同月二〇日に期日の到来する支払手形一七枚合計七八五万九二四二円の決済が不可能な状態であった。そこで、原告は、同月一八日に福田土地から本件売買契約の手付金として三〇〇〇万円の交付を受け、翌一九日、右三〇〇〇万円のうち一六六六万円がカワノの井之本光浩に対する債務(七〇〇万円の手形借入と、一〇〇〇万円の手形借入の期限前弁済による戻り利息三四万円を控除した残額九六六万円)の弁済に充てられた後、残る一三三四万円に六六万円が加えられて、一四〇〇万円が右カワノの当座口座に入金され、翌二〇日、右当座用金口座から前記一七枚の支払手形が決済された。

(4) 同年六月三日、福田土地から原告及びカワノビルに、本件売買契約の残代金三億円が、<1>額面一億〇二六五万三〇〇一円、<2>額面二六四〇万円、<3>額面一億七〇九四万六九九九円の三通の小切手で支払われた。そして、同日、原告及びカワノビルは、前記手付金を含む本件売買契約の売買代金三億三〇〇〇万円の分配について、原告が前記のとおり一億八〇〇〇万円、カワノビルが一億五〇〇〇万円とする旨合意した。

(5) ところで、当時、本件土地及び本件建物には、カワノの別表5「A借入金」欄記載の住宅ローンサービスに対する借入金債務を被担保債権とする抵当権及び同表「B借入金」欄記載の近畿相互銀行に対する借入金債務を被担保債権とする根抵当権が設定されていたため、右<1>の額面一億〇二六五万三〇〇一円の小切手は、株式会社住宅ローンサービスの預金口座に振込入金されて右カワノの同会社に対する借入金債務の弁済に充てられ、また、右<2>の額面二六四〇万円の小切手は、近畿相互銀行に交付されて、右カワノの同銀行に対する借入金債務の返済に充てられ、同日、右抵当権及び根抵当権の各設定登記が抹消されたうえ、本件土地及び本件建物は、福田土地に所有権移転登記された。

他方、<3>の額面一億七〇九四万六九九九円の小切手は、同日、前記カワノの住友銀行港支店の当座預金口座に入金され、一部が同日現在の貸越金に充当された後、一億六六九四万三五六八円が同口座の預金となったが、カワノは、同日中に右預金のうち九〇〇〇万円を一〇〇〇万円ずつ九口の通知預金にし、残る預金から別表5「D借入金」欄記載のファーストクレジット株式会社からの借入金債務残額七一九一万五一七一円を返済した。

そして、同月一七日、別表5「C借入金」欄記載のファーストクレジットからの借入金を、低利率の住友銀行からの借入金に借り換えるため、右通知預金七口を解約するとともに同銀行から一億二〇〇〇万円を借り入れ、これらを右ファーストクレジットからの借入金残額一億九三六五万二〇四七円の返済に充てた。

なお、本件各債務の弁済は、いずれも期限前の弁済であり、カワノや原告が特に一括弁済を迫られているという事情はなかった。

(6) 以上の各債務の弁済は、カワノの経済上の処理としては、カワノが原告及びカワノビルから本件土地及び本件建物の売却代金合計三億三〇〇〇万円を借入れ(原告から一億八〇〇〇万円、カワノビルから一億五〇〇〇万円)た後、前記カワノの井之本光浩に対する七〇〇万円の債務の弁済が未払金の支払として原告を経由してなされているほかは、カワノ自身による弁済としてなされている。

(三) 右のとおり、原告は本件各債務につき、いずれも連帯保証しており、本件土地譲渡後、本件各債務はいずれも弁済されている。

しかしながら、前記のとおり、カワノの経理処理上、本件土地の譲渡による原告の収入一億八〇〇〇万円は一旦原告からカワノに貸し付けられ、カワノ自身が本件各債務を弁済したものとされていることからすれば、本件各債務につき、原告が「保証債務を履行した」といえるかは、大いに疑問のあるところである。

ただ、この点は、原告の出損が実質的に保証債務を履行したものとみられるのであれば、右要件を満たすと考える余地もあるので、これを一応措くとしても、本件は、次のとおり、明らかに他の要件を欠くものである。

すなわち、まず、「保証債務を履行するため資産の譲渡があった」との要件についてであるが、右のとおり、本件土地及び本件建物の売却は、昭和六二年三月二〇日が期日の支払手形一七枚合計七八五万九二四二円をはじめとし、順次期日の到来する支払手形買掛金の決済資金を調達するためになされたものである。そして、カワノの別表5「A借入金」欄記載の住宅ローンサービスに対する借入金債務を及び同表「B借入金」欄記載の近畿相互銀行に対する借入金債務の各弁済は、原告本人も供述(第一回)するとおり、本件土地及び本件建物を福田土地に譲渡するためには、右物件上に設定されていた各担保を抹消することが必要であったためになされたものと認められるのであり、また、同表「C借入金」欄及び「D借入金」欄記載の各ファーストクレジット株式会社からの借入金債務の弁済は、殊に前者の借入金債務の弁済が低利率の借入金への借換えであるところからも明らかなように、(二)(4)<3>の額面一億七〇九四万六九九九円の小切手がカワノの運転資金に組入れられた後、その資金運用としてなされたものとみなれるものであり、さらに、本件各債務の弁済がいずれも期限前弁済であることも考え併せると、本件土地の譲渡が、本件各債務の保証債務の履行を余儀なくされたために行われたなどとは到底認めることができない。

本件土地の譲渡は、「保証債務を履行するための資産の譲渡」というには当たらない。

次に、「その収入により保証債務の履行がなされた」との要件についてみるに、原告及びカワノビルは、前記手付金を含む本件売買契約の売買代金三億三〇〇〇万円の分配について、原告が一億八〇〇〇万円、カワノビルが一億五〇〇〇万円とする旨合意してはいるものの、(二)(4)<1>ないし<3>の小切手は、原告とカワノビルの取得分の混然一体としたものであり、右各小切手により弁済した別表5記載の各債務は、いかなる部分が原告の本件土地の譲渡による収入分により弁済されたかを特定することが不可能であり、本件各債務の弁済に、本件土地の譲渡による収入が充てられたという因果関係を認めることはできない。とりわけ、別表五「C借入金」欄及び「D借入金」欄記載のファーストクレジット株式会社に対する借入金債務の弁済については、さらに、次の面からしても、右因果関係が否定される。すなわち、前記のとおり、(二)(4)<3>の顔面一億七〇九四万六九九九円の小切手は、昭和六二年六月三日、前記住友銀行港支店の当座預金口座に入金された後、貸越金に一部充当されて、一億六六九四万三五六八円の預金となり、そのうえ九〇〇〇万円が一〇〇〇万円ずつ九口の通知預金にされているのであるから、この段階で既にカワノの運転資金に組入れられて、本件土地及び本件建物の譲渡による収入たる性格は失われており、右各弁済はカワノの運転資金一般からなされたものといわざるを得ない。

したがって、本件は、「その収入により保証債務の履行がなされた」との要件も欠くものというべきである。

2  求償権の行使不能について

「求償権の行使ができないこととなったとき」には、主たる債務者について破産、和議、会社整理等によって債権額の全部又は一部が切り捨てられることとなった場合だけでなく、主たる債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債務の弁済を受けることができないと認められる場合において、保証債務者が求償権を放棄したときもこれにあたると解すべきである。

ところで、カワノについて破産、和議、会社整理等によって債権額の全部又は切り捨てられることとなった形跡はないが、甲第一〇号証の一、二及び原告及び原告本人尋問の結果によれば、昭和六二年一〇月一五日、原告は、カワノビルとともに、カワノに対し、長期間の債務超過状態の継続のため回収の見込みがないとして、原告のカワノに対する未収入金債権一億五九三二万七三四八円を放棄する旨の通知をしていることが認められるので、カワノに債務超過の状態が相当期間継続し、その債務の弁済を受けることができないと認められるか否かについて検討することとする。

甲第一一号証ないし九、第一四、第一五号証の各一、二、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五八年四月一日から平成二年九月三〇日までの間の原告及びその妻河野キヌ子(以下キヌ子」という。)に対するカワノからの給与の支給状況は別表6記載のとおりであり、同期間における原告に対するカワノの地代の支払状況は別表7記載のとおりであること、また、右期間の各事業年度末におけるカワノの原告に対する未収入金、貸付金、未払金及び借入金の残高は別表8記載のとおりであることが認められる。

そこで、まず、右給与の支払状況をみると、本件債務の弁済があった昭和六二年六月を含む事業年度である「昭和六二年九月三〇日期」においては、事業年度が半年であるにもかかわらず、それまでの一年を事業期間とする事業年度と同額の原告三〇〇万円、キヌ子二四〇万円の給与がカワノから支払ったものとされていて、右期間の実質的給与は倍額になっており、また、「昭和六三年九月三〇日期」以降は原告については年間五四〇万円、キヌ子については年間四二〇万円にそれぞれ増額されている。また、地代の支払状況についても、本店敷地の地代が、「昭和六二年九月三〇日期」までは年間二四〇万円であったのが、「昭和六三年九月三〇日期」から年間一〇二〇万円に、また、家具店敷地の地代も、それまで年間三六万円であったのが、「昭和六二年九月三〇日期」は半年で一八〇万円とされた後、「昭和六三年九月三〇日期」以降も年間ではあるが一八〇万円になっている。さらに、未収金、貸付金、未払金及び借入金についてみると、カワノは原告に対し、「昭和六三年九月三〇日期」には未収金二七五万円及び貸付金三四万四二〇〇円、「平成元年九月三〇日期」には未収金五七五万円及び貸付金三四万四二〇〇円、「平成二年九月三〇日期」には未収金一〇三〇万一一二五円び貸付金七五五一万四九四〇円の債権を有しているものとされている。しかも、乙第九号証の二、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、本件マンションの購入資金二一〇〇万円も、カワノの原告に対する未払金の支払という形式でカワノから支出されたものとされていることが認められ、これらのような経理処理が、原告とカワノの間で可能であることからすれば、前記原告のカワノに対する債権放棄は税務対策上名目的にされたものにすぎないというほかなく、「求償権の行使ができないこととなったとき」との要件に該当するような事情は、右債権放棄に関して認めることはできない。

二  租税特別措置法三七条一項の適用について

租税特別措置法三七条一項が適用されるためには、<1>個人が事業の用に供している資産を譲渡すること、<2>当該譲渡した日の属する年の一二月三一日までに買換資産を取得すること、<3>当該取得の日から一年以内に、取得した買換資産を当該個人の事業の用に供することが要件とされている。そして、右「事業」には、事業に準ずるものとして政令で定めるもの、すなわち、事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(措置法施行令二五条二項)を含むものとされている。

まず、原告は、前記のとおり昭和六二年三月一八日、本件土地を福田土地に譲渡したのであるが、乙第二号証、第九号証の二、第一一号証、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は、昭和六二年六月一一日、本件マンションを訴外安岡育子から代金二一〇〇万円で取得したことが認められ、本件マンションの購入は、右<2>の「当該譲渡した日の属する年の一二月三一日までに買換資産を取得する」との要件は満たすものといえる。

次に、右<3>の「当該取得の日から一年以内に、取得した買換資産を当該個人の事業の用に供する」との要件についてであるが、検甲第一号証の一ないし五、第二号証の一ないし四、乙第一二号、第一三号証、第一四号証の一ないし五、第一五号証の一ないし三、第一六、第一七号証、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、本件マンション購入前から、隣室の建物の番号九〇五(以下「九〇五号室」という。)を所有しており、同室には原告の二女河野かよ子(以下「かよ子」という。)が居住していた。

2  本件土地及び本件建物が売却されるまで、カワノは三店舗を有し、本件建物の二階をそのうちの「夕凪店」の店舗として使用していた。ところが、本件土地及び本件建物が売却されたため、「夕凪店」の在庫処分をして、残った商品を本件マンションに運び込み、その後も本件マンションを納品前の商品や預かった家具等の保管場所として使用していたが、本件マンションはもともと住居用マンションであり、また、残った二店舗にもそれぞれ倉庫があったため、本件マンションは補助的な保管場所というにとどまった。

3  本件マンションにおける商品の保管は、かよ子が担当していたのであるが、昭和六三年六月ないし八月ころから、かよ子は本件マンションの方を住居として使用し始め、他方、九〇五号室にもカワノの商品を入れて保管するようになった。

4  カワノから原告に対し、本件マンションの賃料は支払われていない。

ところで、本条項は、買換資産が当該個人自体の事業の用に供された場合に適用されるのであるから、カワノが商品の保管場所として使用していたとしても、それは原告の「事業の用」に供されたとはいえないことはいうまでもない。

そこで、本件の場合は、カワノが商品の保管場所として使用していることが、前記措置法施行令二五条二項の定める「事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行う」との要件に当たるかが問題となるのであるが、右認定事実によれば、本件マンションは、事業上カワノの商品の仮の保管場所となっているにすぎないと考えるのが実態に即したものであって、これがカワノに貸し付けられていたとまではいい難いばかりでなく、原告はカワノから賃料の支払を受けていないので、「本当の対価を得て行う」との要件にも欠けるものである。

なお、原告は、現在本件マンションの賃料は取ってはいないが、平成四年末ごろには取るつもりでいるとの趣旨の供述(第一、二回)をしているが、その金額についても一か月三万円と言ったり一万五〇〇〇円と言ったりして、極めて便宜的、その場限り的な供述に終始しており、これを額面どおりに受取ることはできず、いずれにしても原告の主張は失当である。

したがって、その余の要件について考えるまでもなく、本件マンションの購入に租税特別措置法三七条一項が適用される余地はないものといわざるを得ない。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 川添利賢 裁判官 大藪和男)

別表1

昭和62年分の課税の経過及びその内容

<省略>

別表2

昭和62年分の譲渡所得の計算

<省略>

別表3

<省略>

別表4

譲渡物件一覧表

<省略>

別表5

カワノの借入金一覧表

<省略>

別表6

(株)カワノからの給与の支給状況

<省略>

別表7

(株)カワノから原告河野守に対する地代家賃の支払状況

<省略>

別表8

(株)カワノの原告河野守に対する未収入金、貸付金、未払金、借入金

<省略>

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